質問が上手い人は、生まれつき勘がいいように見えます。けれど落ち着いて観察すると、上手さには写せる部分があります。教材は買わなくてかまいません。今日から始められる、観察・準備・振り返りの三歩の稽古を渡します。
短答 — 観察・準備・振り返りの三歩
質問力の稽古は、会話の外に半分あります。一歩目は観察。対談番組やラジオで、話が急に面白くなった箇所を見つけたら、その直前の質問を確かめます。二歩目は準備。次に会う相手を思い浮かべ、その人にしか聞けない一問だけを用意します。作れない日は「それ、どこで覚えたんですか」を持っていけば足ります。三歩目は振り返り。会話のあと、相手の声が変わった質問を一つだけメモする。この三歩を、次の一回の会話ごとに回します。
場数だけでは伸びない理由
会話の数をこなしても質問力が伸びにくいのは、本番中は自分の聞き方を観察する余裕がないからです。話しながら自分の質問を採点できる人はいません。だから稽古は、当事者でない時間へ半分移します。他人の会話で「どの一問が流れを変えたか」を見るのは、自分の会話の中で考えるよりずっと簡単で、しかも失敗がありません。
質問の上手さは才能ではなく鍛えられる技術だという整理は、刊行書籍でも語られてきました(齋藤孝『質問力』ちくま文庫など)。この記事も同じ立場を取ります。ただし本を揃えることは前提にしません。体一つでできる稽古だけを扱います。
三歩の手順
一歩目・観察。 ラジオでも対談記事でも、素材は何でもかまいません。見るのは「答えの名言」ではなく、名言の一つ前です。答えた人が急に生き生きした箇所には、たいてい範囲の絞られた短い質問があります。見つけたら一行メモする。これだけで、いい質問の手触りが少しずつ手に入ります。
二歩目・準備。 次の会話の前に、一問だけ作ります。基準は二つ。その人にしか聞けないか、いま聞く理由があるか。誰にでも聞ける「最近どうですか」は準備には数えません。どうしても作れないときは、相手の持ち物にも仕事ぶりにも当てられる「それ、どこで覚えたんですか」を持っていきます。
三歩目・振り返り。 会話のあとは、良し悪しの採点をせず、事実だけを残します。「〇〇と聞いたら、声が変わった」。一行で終わりです。反省会を長くすると次の会話が怖くなり、稽古そのものが続かなくなります。
いい質問を見分ける目印
観察のとき、何を「いい質問」と数えればよいのか。目印は、質問した側ではなく答えた側に出ます。
- 答えの声が変わる。速くなる、大きくなる、笑いが混ざる。
- 「いや、実はですね」と、聞かれた以上のことを話し始める。
- 考える間が生まれる。即答できない質問は、相手の中のまだ言葉になっていない場所に当たっています。
反対に、質問した人がどれだけ賢く聞こえるかは、目印になりません。この見分け方は、三歩目の振り返りで自分の会話に対しても同じように使えます。
うまくいかない日の分岐
- 用意した一問を出しそびれた — 失敗ではありません。出す場所が来なかった質問は、次の機会まで持ち越せます。無理にねじ込むほうが会話を折ります。
- 用意した一問がすべった — 「うまく聞けなかったので、聞き直してもいいですか」と言い直すか、相手の答えた言葉を拾う方向へ切り替えます。拾い方は質問が思いつかないを聞き方から直すにあります。
- 観察する素材が見つからない — 今夜のラジオでも、昔読んだ対談記事でもかまいません。素材の新しさは稽古の質と関係ありません。
やりすぎと失敗の形
- 質問のストックを増やしすぎる。 用意は一問まで。リストは本番で台本になり、相手の答えを聞かなくなります。台本の消化が癖になっている人は、質問攻めになってしまうを聞き方から直すが効きます。
- 毎回の会話を練習台にする。 会話には相手がいます。試すのは次の一回に一問だけ。残りの時間は、稽古を忘れて話してください。
- 観察が批評になる。 他人の質問の粗探しは、稽古ではなく観客席の野次です。写したい一問を探す目だけを持ち込みます。
次の一回の練習課題
今日は会話の予定がなくても始められます。対談かラジオを一本選び、話が動いた瞬間の直前の質問を一つメモしてください。次の会話の前に、その相手にしか聞けない一問を作る。作れなければ「それ、どこで覚えたんですか」を持っていく。ここまでで、三歩のうち二歩が終わっています。
