対面では聞き上手な人が、画面越しでは相手の話を止めてしまうことがある。原因は性格の変化ではない。オンラインの通話では、二人の声が同時に出ると音が重なって聞き取れなくなり、こちらの「はい」「ええ」という相槌そのものが、相手の声への割り込みになるからである。気まずさの正体は技術の問題で、だから対策も技術でよい。
この場面の短答
オンラインの雑談・会話で起きる気まずさは、三つの性質から生まれる。声が重なると両方つぶれること。沈黙が回線の故障に見えること。誰が次に話すかの合図(視線・体の向き)が画面では読めないこと。
対策はそれぞれ一つずつある。相槌は声からうなずきへ置き換える。沈黙には「考えています」と札を立てる。かぶったら「あ、すみません、かぶりました。先にどうぞ」と譲って、相手の文が終わってから話す。この三つを覚えれば、気まずさの大半には名前と対処がつく。原因が画面の性質にあるのだから、対処も画面向けの技術でよい。
場面の前提 — 声が重なる画面ごし
この記事が扱うのは、仕事のオンライン会議の前後に生まれる待ち時間と、画面越しの短い雑談である。厚生労働省がテレワークの導入と実施についてガイドラインを公表しているとおり、画面越しに働くことはもう特別な形態ではない。会議室なら廊下や着席のざわめきが埋めてくれた数分を、オンラインでは無音の画面と二人で過ごすことになる。
もう一つの前提は、音声の性質である。画面越しの通話では、二人の声が同時に出ると片方が欠けて聞こえることが多く、相手の話の途中で発した相槌が、そのまま相手の声への割り込みになってしまう。よかれと思って打つ相槌が多いほど、相手は話しにくくなる。対面の常識が裏返る場面だと知っておくだけで、直す先が見える。
最初の一言 — 待ち時間の事実質問
開始前に二人きりになったら、「今日は、そちらは在宅ですか」と聞いてみる。在宅か出社かは、オンライン会議でだけ成立する話題である。相手は事実で答えられて、答えの先には通勤、部屋の暑さ、背景に映る棚と、拾える言葉が続いている。
同じ型の変形として、「そちら、今日は暑いですか」も使える。離れた場所にいることが前提の質問は、オンラインの地の利である。避けたいのは、映っているものへの評価から入ることで、部屋や身なりへの言及は、事実の確認のつもりでも相手に説明の義務を負わせやすい。
一言置いたら、続きを無理に広げなくてよい。「始まるまで、あと二分ですね」で本題を待つのも、立派な待ち時間の過ごし方である。
続ける相槌 — 声からうなずきへ
本題や雑談が始まったら、聞いている合図の送り方を切り替える。基本は、画面に映る深さでうなずくこと。対面のうなずきより少し大きめに、相手の話の区切りに合わせて首を動かす。声を出さないので相手の音声を欠けさせず、それでいて画面には「聞いている」が映り続ける。
声の相槌を打つ場所は、相手の文末に限る。息継ぎの位置で「ええ」「なるほど」と短く置き、文の途中では動きだけにする。評価を挟まず最後まで聴く姿勢は、厚生労働省「こころの耳」が傾聴の基本として挙げるものと同じで、画面はその姿勢を映す装置だと考えればよい。
それでもかぶったら、修復の出番である。「あ、すみません、かぶりました。先にどうぞ」。この一言は失敗の謝罪ではなく、発話権を渡す合図として機能する。譲られた相手は安心して文を終え、次はこちらに順番が回ってくる。
切り上げ方 — 退出の閉じ方
オンラインの会話は、退出ボタンで唐突に終わりがちである。閉じる一言を決めておくとよい。「では、続きは次回のこの時間に」。次があることを言葉にしてから退出すれば、切断ではなく終了になる。
雑談が続いたまま時間が来たときも同じで、「その話、次のときに続き聞かせてください」と持ち越しを宣言する。画面の中の関係は、会うたびに接続し直す関係である。だからこそ、終わり方に次回の予約を一つ挟む。ナユが画面の前で持ち帰ったのは、うなずきの深さと譲りの一言だった。次の会議で試すのは、どちらか一つでいい。
