相手の話の途中で、言いたいことが浮かぶ。「それ、私も」「あ、それなら」。言葉が重なったと気づいたら、まず自分の話を止める。「ごめんなさい、続きをどうぞ」と返したあと、相手がどうしたいかまで聞こう。
ここで扱う遮りは、相手が話している途中に自分の話を重ね、そのまま先へ進んでしまうこと。日常の一対一の会話で試せる、待ち方と戻り方を練習する。
遮る直前に、何を言おうとしていたか
話を遮った一場面から、自分を「人の話を聞けない性格」と決める必要はない。次に試すことを選ぶために、そのとき何を言おうとしていたかを振り返る。
- 忘れたくない。 浮かんだ言葉は数秒で消える気がして、消える前に出そうとする。
- 早く共感を伝えたい。 「私も同じ」と言うことが、聞いている証拠になると感じている。
- 結論が見えた気になる。 話の行き先を先回りして、時間を節約したくなる。
これは振り返りの例で、原因を三つに分類したものではない。どれも当てはまらなければ、相手のどの言葉に自分の声が重なったかだけ確認してもよい。
厚生労働省「こころの耳」の傾聴練習の進め方では、話し手が自分から自由に話せることを練習の目標としている。傾聴とはでも、相手の立場で理解し、分からない点は確かめる姿勢が示されている。以下はその姿勢を参考にした日常会話の練習案である。
遮らないための手順
- 言いたいことが浮かんだら、すぐに話し始めず保留する。 相手がまだ話していない結論を、自分の予想で補わない。
- 覚えておきたいことを、一語で残す。 「出張の話」のような短い言葉を頭に置く。メモを使える場面なら短く書き、すぐに相手の話へ注意を戻す。書くことに気を取られるなら、メモは使わなくてよい。
- 一文の終わりで、続きを待つ。 文の切れ目は話全体の終わりとは限らない。相手が言葉を探しているなら、次の話題を差し込まない。
- 自分の話を出すか、確かめる。 相手が話し終えたあとも、聞いてほしいだけの場合がある。「私にも似たことがあった。少し話してもいい?」と尋ね、望まなければ出さずにおく。
遮ってしまったあとの戻り方
待つつもりでも、言葉が重なることはある。気づいたところから、自分の話を止めて戻そう。
被せた瞬間に気づいたら、「ごめんなさい、続きをどうぞ」と返し、相手の返答を待つ。謝罪の説明で再び話を占めないよう、まずは短く伝える。
あとで気づいたときは、「さっき途中で切ってしまった話、あらためて聞かせてください」と申し出る方法もある。ただし、相手が今も話したいとは限らない。断られたら、その場で聞き直すのをやめる。
戻したあとの返答で、次の一言を変える
次は練習用の架空例である。相手の「昨日の打ち合わせでね……」に、「私も昨日」と被せてしまった。あなたは自分の話を止め、「ごめんなさい、続きをどうぞ」と返した。そのあとの反応を一つ選び、何と言うか考えてから例を開いてみよう。
「うん、その続きなんだけど……」と話し始めた
「うん」と短く受け、続きを聞く。戻せたことを説明したり、自分の昨日の話を再開したりせず、相手が話している内容へ注意を向ける。
「今日は、ただ聞いてほしかっただけ」と言われた
「わかった。聞いているよ」と返し、助言や自分の似た体験をいったん置く。話が続けば聞き、続かなければ「それで?」と重ねて質問しない。
「もういい、今は話したくない」と言われた
「わかった。今は聞かないでおくね」と返して終える。「でも気になるから」と理由を追わず、別の機会に話す約束も求めない。
同じ戻し方でも、次にすることは相手の返答で変わる。表情や沈黙だけから気持ちを断定せず、話したくないという意思が示されたら尊重する。再開できたかだけを、練習の成否にしなくてよい。
やりすぎと失敗の形
- 黙り込みの過剰修正。 自分の話を差し込まないことと、反応をなくすことは別である。うなずきや短い相槌を使いつつ、相手の言葉に重ならないようにする。
- メモに集中する。 残す言葉を考えて話を聞き逃すなら、書くのをやめて聞くことへ戻る。
- 自分を責め続ける。 次に試すことが見えなくなったら、反省を重ねるより「次は自分の話を止めて返す」と一つだけ決める。
- 相手を採点する。 返答が短い、再開しなかったという理由で、相手の聞き方や気持ちを評価しない。
次の一回の練習課題
まず上の三つの返答から一つ選び、次の一言を声に出すか、頭の中で試す。「話したくない」を選んだら、質問を足さずに終えるところまでが練習になる。
次の実際の会話では、一回だけ言いたいことを保留して待ってみる。もし遮ったら、「ごめんなさい、続きをどうぞ」と返し、返答を待つ。振り返るのは、自分の話を止めたか、相手が続けるか終えるかを尊重できたか。回数を毎日記録したり、必ず会話を再開させたりする必要はない。

